王子様とブーランジェール



…だなんて、呑気なことを言っている場合ではなかったことに気付くのは、間もなくのことだった。



グラウンドの片付けも終わり、みんなで足早に体育館の中にある更衣室に向かうため、グラウンドを出る。

正面玄関口から入り、体育館へ向かおうとした。

正面玄関前は、ただいま登校してきた生徒たちで行き交い溢れている。



「…あれ?咲哉じゃね?」



幸成が正面玄関口とは逆方向の校門の方を見て、立ち止まる。

「え?マジ?」

「あ、ホントだ」

「何やってんだあのサボりは」

次々とみんなが立ち止まる。

俺も一緒になって立ち止まってしまった。



(…えっ?!)



しかし、遠くからでも解る、咲哉の異変を目にして、ザワツキを感じられずにはいられなかった。

咲哉…まさか?!



すると、こちらに足を進めていた咲哉が、俺達に気が付く。



「…あっ!みんな、今日朝練休んでごめん!今日だけ許して?ね?」



俺達の前で立ち止まり、手を合わせて詫びている。

しかし、俺達はその姿を見て、呆然とする。



「…咲哉?その顔、どうした?」

翔が咲哉の顔を恐る恐ると指差す。

すると、咲哉は「あっ」と、笑っていた。

「おもいっきり転んじゃったんだよー!ドジったわあははは」

「もう!心配かけさせないでよね?」

「すまんすまん」



咲哉の顔には、絆創膏と擦り傷が…!



まさか、おまえ…やられたのか?



「…夏輝、夏輝!」



呆然としている俺を咲哉は引っ張り出して、みんなとは離れたところに連れていく。



「さ、咲哉、どうしたんだよその傷!まさか!」

「だ、大丈夫だって!やられたのは俺じゃない!…それより、ヤツらの顔見たぞ!写真撮った!手がかりになれば良いと思って!」

「やられたのは俺じゃない?…って、ケガしてるじゃねえか!」

「それはいいから!あと、これ、預かってきた」



そう言って、咲哉はズボンのポケットに手を入れている。

出てきたものは、二つ折りの紙切れだった。



やっぱり…!



《ミスター出てこいや!》



またか…!









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