王子様とブーランジェール






「…あ、お疲れさまです」

「竜堂、久しぶりだな」



5時限目は移動教室で、授業も終わり、自分の教室に戻る際に夏休み前以来会っていなかった人と、偶然出くわす。

目が合ってしまったので、頭を下げて挨拶すると向こうから寄ってきた。

ツンとしたクールな雰囲気の眼鏡の先輩。

生徒会の書記、2年の二村さんだ。



「最近はどうだ?…って、言うまでもないか。昨日は大変そうだったな」

「あ、はい…ご迷惑おかけしてすみません」

昨日、とは。

あの女子軍団の長蛇の列のことだよな。

どこかで見てたのか…。

「迷惑、には入らない程度だな。先代ミスターのファンに比べたら。静かに列になっているなんて、随分お行儀の良いファンじゃないか」

「はぁ…」

お行儀の良い、ねぇ…?

小笠原麗華と愉快な仲間達にお会いしたら、恐らく卒倒しますよ?ガス室の存在知ったら、そんなクールではいられなくなりますよ?

苦笑いが出そうだ。

「これからも迷惑かけないようにしていきたいと思いますんで、すみませんが、よろしくお願いします…では」

「…あ、待て」

そんなに時間もないので、挨拶をして立ち去ろうとしたが、今一度、引き留められる。



「…時に、竜堂。最近変わりはないか?」

「…え?」



それ、さっきも聞いていたよな?

ドキッとしたのは言うまでもない。

変わりは…おもいっきりあるからだ。

しかし、この話を彼にしても良いのかどうか、判断に困る。




『君がミスターであることで困ったことがあれば、生徒会に相談に来てくれれば、対応出来ることを助言させてもらう』




確かに。困ってるといっちゃ、困ってるんだけど。

果たしてこれが、その二村さんが言う困ったことに当てはまるのかどうか。

判断が難しい。



少し考えてはみたが。



「…いえ、特に。では」



とりあえず、何も話さずに去ることにした。

一瞬、気付かれているのかと思って、ビックリしたが。

関係ない人を巻き込んで、騒ぎを大きくしても。

ましてや、生徒会だぞ?

学校サイドに知られるとなれば、エライことになりそうだ。



ヘタに大事には出来ない。

それは、やられた被害者の男子生徒のためでもある。

まずは、自分なりに事の発端と犯人を探していくしかないのだ。



って、俺のところにケンカ売りに来てくれりゃ、解りやすいのに。

しかし、そんな真っ向勝負せずに、汚いやり方で精神的に追い詰めていくなんざ。

許されないわ…!



< 480 / 948 >

この作品をシェア

pagetop