王子様とブーランジェール
1時限目終了。
2時限目は、LL教室へ移動のために続々とクラスメイトが出ていく。
「夏輝、俺らもそろそろ行かね?」
そう言いながら、理人はカバンの中から教科書を出している。
「あぁ…そろそろ行くか」
と、言いながらも。
なかなか教室を離れることが出来なかった。
どうしても気になってしまうことが起きた。
「あ?どした?」
理人が辺りを見回しながら、俺の視線を辿る。
俺はその光景をさっきから見ていた。
「ないないないない…ないよぉーっ!ど、ど、ど、どうしよぉぉー!」
「と、桃李、落ち着いて!さっきいじってたんでしょ?絶対あるよー!」
また、ヤツだ。
ヤツの周りには、ペンケースから、小物やらポーチやら。
今の時間使う教科書、使わない教科書。
マスコットのキーホルダーやら、私物のレシピ本。
ありとあらゆるヤツの私物が散らかっていた。
携帯枕?…寝る気満々かこのヤロー!
バカでかいこのリュックをガバッと一気に逆さにして、中のモノを雪崩のようにひっくり返していたのを、さっき見た。
自分の席周辺に私物をいいだけ散らかし。
どうやら探し物をしているらしい。
友達の黒沢さんを巻き込んで。
散らかしまくって、相当なお祭りになっている。
「な、ないよぉー!け、スマホないよぉー!」
スマホが行方不明なのか。
「桃李、授業始まっちゃうよー!」
「りみちゃん、先行っててー!あ、でも、でも、一人じゃ探せないぃぃー!うわぁーん!」
そう言いながら、散らかした私物の隙間や重なった教科書を何度もひっくり返して探し物をしている。
挙動不審女が、どもりながら、慌てまくりで。
その光景は、見るも無惨なものだった。
…ったく、このっ!
「あちゃー。桃李、また何か無くしたのか?」
理人が、桃李の繰り広げている状況に気付いたらしい。
苦笑いしながらも、桃李のもとへ行き声をかけた。
桃李も理人の存在に気付いた。
「り、り、りひ、理人ぉー!す、す、すま、スマホないよぉーっ!」
挙動不審でどもってやがる。
落ち着けっつーの。
「スマホ?」
「うん、うん!す、スマホ!け、ケータイ?スマホ!さっき、電源きってどっか置いたの!」
「どっか置いたってか…」
苦笑いが増す理人。
あー…。何でいつもこんなんなんだ。
この女わよ!
イライラすんな!
「…桃李!何やってんだおまえはぁぁっ!」
思わず心の声が出てしまった。
すると、桃李は体をビクッとさせてこっちを見る。