王子様とブーランジェール




狭山と松嶋を連れて、戦場となっている野球部のグラウンドから離れる。

校舎に近付くと、陰に隠れるようにしてこっちに手を振っている女子生徒がいた。

「竜堂くん!こっち!こっちです!」

「早く早くー!」

菊地さんとまゆマネだ。

気持ち小声で手招きしている。

「いたのか?」

狭山の問いに何回も頷いていた。




「いました。総長の八上真秀とバヤセの幹部です」





校舎の壁づたいに、みんなでこそこそと身を進める。

校舎の陰から、こっそりと顔を出して正面玄関口のその様子を伺った。




「…ヤバいって!ここはさっさとずらかるぞ!真秀!」

「女のくせにやたら強えのいるし、紋中四天王もいるなんて聞いてないぞ!真っ向ぶつかったらやられる!」

正面玄関口で、緑ブレザー不良が数人。

モメてる感じ…?



「…手ぶらで帰れるか!」

「真秀!」

「瞳は…瞳は絶対ここにいるんだ!絶対連れて帰る!」



いた。

不健康な、なりきりホストもどき。

不健康そうに見えるのは、その超ロン毛の金髪がツヤがなくバサバサだからだろうか。



マシュー総長だ。



「和田くんが見つけたの。今も靴箱の陰に隠れて見てるはず」

まゆマネがこそっと耳元で話す。

なるほど。

理人は鍵をかけたドアの向こうから、奴らを見つけたのか。



その様子を全員でしばらく見守る。

逃げるのか、逃げないのか。やんややんやとモメ続けているようだ。



その時、マシュー総長が仲間に掴まれた腕を振り払った。



「…うるさい!瞳は絶対ここにいるはずなんだ!」

「真秀!」



…絶対ここにいるはずなんだ!だって。

おあいにく様。

姫はここにはいない。

何を根拠にそう言い切っているんだろうか。

勘?俺の勘は間違いないって?

ぶっ。おまえはエスパーか?



笑えてくるな。



すると、マシュー総長は正面玄関口のガラスのドアに向かって叫び出す。




「…瞳!瞳!…いるんだろ?!助けに来たぞ!出てこい!」



姫、いないのにいると思って叫んでる…。

残念ながら、そこには理人しかいない。

ただ呼んで姫が出てきたら、これ以上にイリュージョンなことはない。

助けに来たぞ!だとさ。

そんな中で、理人が出てきたらビックリするだろうな。

姫を助けに来たのに、あえての理人ドーン!みたいな。



笑えるわ。

マジ笑えるわ…!



しかし、ここで笑ってはいけない。

笑ってはいけない…!

今日は大晦日か!



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