王子様とブーランジェール



このまま離さないでいられたらとか、このまま部屋に連れていきたいとか考え出してしまうが。

それはもうキリがないし、ただの変態なのでグッと堪えてやめておく。

本当に痴漢になってしまう…。



(…ん?)



そんなエロいことを考えながら、桃李の体を布団の上に降ろした時。

とある異変に気が付いた。



桃李…目の回りが濡れている。

水滴が反射して、キラキラ光っていた。



涙…?



思わぬ事態に、ドキッとしてしまう。



え…泣いて?

泣いていたのか…?



布団に寝かされた桃李は、すやすやと寝ている。

体を持ち上げられて移動させられても覚醒しないあたり、本当に爆睡しているはずなんだけど。



…え?何?

寝ながら泣いていたのか?



なぜ、寝ながら泣く?

何か恐ろしい夢でも見ていたのか?

ひょっとして…さっきペンで額を殴ったからか?

それとも…。



…と、さっきの桃李の様子が頭に浮かんだ。

あの、アンニュイで心ここにあらずな様子が。



まさか、本当に何か悩んでるのか?



だとしたら、何だろう。

受験戦争で疲れてるとか?

誰かにセクハラされているとか…だなんてヤツがいたら、瞬殺してやる。



いろいろ考えてみるが、皆目見当がつかず、煮詰まりかけてしまった。

桃李が悲しんでるとか、悩んでるとかと思うと、気になって仕方ない。

あー。ダメだ。気になる。

こういう時、さりげなくでいいから相談とかしてもらえないだろうか、とも思ったりして。

でも、俺のところに来る前に、まず理人か秋緒だよな。…ちっ。

何で俺が最初じゃないんだよ。こんなにも頼りにされたがってるのに。




朝、目が覚めたら、様子を探ってみるか…。

ついでに理人に探りを入れてみる。




俺の心配なんて知る由もなく、桃李はすやすやと寝ている。

眼鏡が外れかけていたため、外して枕元に置いてやる。

…眼鏡を外してしまった。

かわいい。かわいいぞ。

寝顔もかわいい。



あまりにも想いが募ってしまい、涙で濡れた目を指で拭う。

泣くんじゃない。このバカ。

どうしていいかわからなくなるだろ。

心配…するだろ。



しばらく寝顔を見つめていたが『キスしたいな…』なんてエロいことを考えてしまい、電気を消して慌てて部屋を出る。

ダメだ。ダメだ。本当に痴漢か。



…だが、翌日になっても、結局。

その涙の理由はわからず仕舞いだった。





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