王子様とブーランジェール



「…あれ?怒られてんの、神田じゃね?」

咲哉は今気が付いたのか、指を差して俺達を見る。

「桃李?どうしたんだ?」

理人も気が付いたか。



ゴリラ男子の手には、ぺたんこに潰れたサンドイッチが。

それを桃李の前にちらつかせて怒鳴り散らしている。

それに対して謝り続ける桃李。



「俺の!やっとの思いで買った昼飯、どうしてくれるんだよ?!俺の昼飯、無し?思いっきり踏みつけやがってよ!」

「ご、ごごごめんなさい!弁償します…」

「弁償?!あぁ?!…もうとっくに売り切れてんだよコラァ!!」

「あぁぁ…じ、じ、じゃあ違うもので弁償…」

「あぁ?!おにぎりも売り切れなんだっつーの!何を昼飯にしろってんだ!」

「お、おまんじゅう…」

「あぁ?!饅頭が昼飯?!冗談じゃねえぞ!」



…恐らく。

ゴリラの買った、やっとの思いのサンドイッチを。

桃李が何らかの原因で、おもいっきり踏み潰してしまった。

で、ゴリラご立腹。

サンドイッチはもう売り切れで、ますますご立腹。

おまんじゅう勧められて、なおご立腹。

と、いった話か。



気持ちはわかりますが。

ゴリラの器、小さっ。

しかも女子相手に、ガチギレ?

終わってんな。



でも、桃李も余計なこと言うんじゃない。

怒りを煽ってるじゃねえか。

おまんじゅうが昼飯?ちょっとイラッとするな。



しかし。
聞き逃さなかったぞ。

あのゴリラ。

桃李のことを、『眼鏡ブス』っつったな…?

俺の大事な桃李に!

暴言か!




「あの男子、三年の高瀬じゃね?空手部主将の」

生徒の名前に詳しい陣太が「やばくね?」と呟いている。

「三年の空手部?」

ゴリラ空手か。

空手を心得る者、サンドイッチ踏みつけられたぐらいで、ガチギレか?

聞いて呆れるな。




「桃李がピンチですよー?行かなくていいのですかー?」

理人が俺の耳元で呟いている。

ちっ。何だその棒読みなしゃべり方。

冷やかしお断りだっつーの。



…だが、冷やかしお断りとわかっていても。

桃李がピンチだ。

暴言を吐かれた!

許されないわ!



動く条件はそれだけで十分だった。



二人がモメるその現場に足を進める。

間に入って、ゴリラの高瀬を宥める。

んで、サンドイッチでも饅頭でも何でも弁償してやる。

相手を冷静にさせるには、この第三者の介入が大事だ。


と、いう手筈でいこうかと思っていたが。



(…はぁっ?)



現場の状況は、変わっていた。



「…オドオドしやがって!目障りなんだよ!」



高瀬の手には、いつの間にかゴミ箱が。

そこの自動販売機の傍に置いてあるゴミ箱を、高瀬は手にしていた。

それを、桃李に向かって大きく振り上げる。


ま、マジ?!

正気かこのゴリラ!

女子相手に暴力なんて!



(…やばっ!)



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