王子様とブーランジェール



『あ、あのっ…!』

『座って座って?』

空き教室には誰もおらず、傍にあった椅子に座らされる。

彼女は私の手を離し、教室のドアを閉めて再び私のもとへやってきた。

そして、その美人な顔で、綺麗な瞳で見つめられる。



『…大丈夫?どっかケガしてない?』

『あ、だ、大丈夫です…ホントすみません…』

『私は大丈夫だから、気にしないでねー?』



優しい…。

あんな出来事の後だから、その優しさにホッとさせられる。



『お、お、お姉さんがケガしてなくて…よ、よかったです…』

『お姉さん?…あ、私、律子っていうの。よろしくね?二年生』

りつこさん。美人さんなのに、すごく優しい人。



すると、質問をされる。



『…あなたは?このフロアにいるってことは、一年生だよね?…しかも、どうしたの?』

『へっ?』

『だって、そんなに泣いて…友達とケンカ?』

『あ、あ…いや…』

今さっき知り合った人に、何があったか長々説明するのは…。

言葉に詰まってると、違う質問をされる。

『そうだ。名前聞いてない。何組?教えて?一年生とは仲良くしときたいんだー?』

『あ…一年三組…神田です…』

『一年三組?!』

彼女の瞳が一気にパアッと輝く。

直ぐ様、スマホをいじって通話を始めていた。

『…もしもし!…ねえねえ、ちょっと来て!四階のC教室!今すぐ!今すぐ!』

誰に電話…?

首を傾げてると、律子さんは通話を終えていた。



『ちょっと待ってねー?もう一人来るからー』

『え…』



何で。何でもう一人呼んじゃったんだろう。

わかるのは、このお姉さん、律子さんが急にウキウキし始めたことだった。

すると、律子さんは私の顔を見て『…あっ』と声を出す。

『…ここ!…眼鏡のとこ!血が出てるよ?』

『あ…』

『ひょっとして、さっきぶつかった時?大変!』

そう言って、律子さんはあれよあれよと強引に私の眼鏡に手をかける。

ためらいもなく外してしまった。

あ…眼鏡!



一気に視界がぼやける。

超ド近眼に乱視の私。

目の前にいる律子さんの顔さえ、ボヤボヤになって見えなくなってしまった。



『え…』



律子さんは言葉を発せずに、黙っている。

な、何があったのかな。

何も見えないからわからない。



『す、すみません…め、眼鏡返してください…』

『か、か、可愛いっ…!』




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