ホワイトデーお返し調整会議【男子達の関が原】
 以前、就業時間後に石田係長が前田課長の自宅に連絡をして、前田課長の偽りが奥方にバレかけた一件を語り、前田課長に暗に圧をかけたのである。

 その時、前田課長の手遊びは一瞬止んだが、しばらくしてまた始まった。石田発言に反応したというよりは、指のささくれを引っ張って痛かったのだろう。証拠に前田課長は無心に右の薬指をなめている。

 話はやや逸れるが、職場から自宅に所在を聞くのはタブーであり、また自宅から職場に連絡があっても、居場所をあいまいにするのが男子社員の暗黙のルールとなっている。以前、自宅からいつ電話を受けても「イベントのスタッフ弁当を買い出しに行っておりまする。」と返事して、「うちの主人は50にもなって、いつも弁当の買出し担当ですか!」と、ある次長の奥方に職員が怒鳴られたということがあった。爾来その次長は、【弁当次長殿】と、あだ名された。

 「島津殿だ、島津殿は部長と古い。島津殿なら部長の居場所を知っているかも知れない。」

手遊びを止めた企画室最古参の前田課長が提案した。

 小早川ケンタは、夜勤の警備員に元企画室の職員だった島津という人物がいることを知っていたが、会ったこと面識はなかった。ただ、どうして企画室にいた人間が委託の警備会社の勤めているのか、以前から少し興味を思っていた。

 「薩摩守(島津のこと)なら宿直にいるだろう。」

 本田次長も島津氏に松平部長の居場所を聞くことを同意したようだ。
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