絵本王子と年上の私



 言う言わないをいったりきたり考えて、思考がパンクしそうになった時だった。
 スマホが振動音が聞こえた。美冬がメッセージをくれた時とは違う、電話を知らせるものだった。
 夜に電話してくる人は、毎日決まっていた。いつもより少しだけ時間が遅かったのは休み前だからかもしれない。
 
 まだ白に伝えるか迷ってはいたが、彼の声が聞きたくて、しずくはすぐに通話ボタンを押した。

 「はい。」
 「夜分遅くにすみません。しずくさん、寝てましたか?」

 優しい声はいつもと変わらない。
 その声を聞くだけで、しずくは胸が高鳴ってしまう。白の事を考えていたからドキリとしたのかと思ったが、彼からの電話がかかってくると、毎回そうだと気づかされる。自分がどんなに好きになっているのか、思い知らされる。
 そんな気持ちだったからか。普段言えないことを伝えたくなってしまう。自分の正直な気持ちを。

 「ううん。大丈夫だよ。明日休みだからゆっくりしてたところだし、その、、、。」
 「、、、?しずくさん?」

 心配する白の声を聞きながら、不思議と今日は言えると、思った。電話だからなのか、最近会えない日や会えても短い時間だけで寂しかったからなのか。理由はわからなくても、素直になれると自分でわかったのだ。

 「電話待ってたから。白くんから来るの。」

 気づくと、しずくはそんな言葉を口にしていた。
 それは心の中で思っていたこと。明日のデートが楽しみで、でもいつもよりも連絡が遅いことを気にしていたのだ。
 ハッと我に変えるとやはり照れてしまい、顔が真っ赤になる。その姿を白に見られないのは、よかったと気づく。
 だが、肝心の電話口の相手からの返事がない。
 自然に口から出てしまった言葉なので、何かまずいことを言ってしまってのでは?と少し心配になり、おろおろとするが、やはり返事はなかった。

 「、、、あの、白くん?」
 
 声をかけると、はっと短く息を吸う音が聞こえ、次にはすぐにいつもの彼の声が耳に入ってきた。

 「僕はしずくさんの電話なら絶対に出たいです。極力出るようにしますし、電話貰えると僕が嬉しいので、しずくさんが電話したいと思った時に、連絡してください。」

 その優しさと彼の思いを聞き、更に顔が真っ赤になる。ドキドキしすぎたのか、感動したのか、それとも恋愛慣れしていないなのか。理由はわからないが、何故か瞳がうるうるとしてきてしまう。
 白は、どうしてこんなにも素直に気持ちを伝えてくれるのだろうか?きっと、しずくにわかってほしいのだろう。それを、常々感じられるようになってきてきた。

 「、、、うん。ありがとう。」
 「待ってますね。」

 そして、話は明日の大学祭への話題が変わった。大体の事は会った時に話していたが、確認をしあった。

 「明日なんだけど、白くんおうちに迎えに来てくれるって言ってたけど、その前に買い物とかしようと思ってて。大学の近くに行くから、現地集合でもいいかな?」

 仕事終わりに家まで来てもらうのも申し訳ないと思っていたし、せっかくの休みなので少し外に出ようと考えていたのだ。

 「いいんですか?迎えにいけますよ?」
 「大丈夫だよ。明日は天気もいいみたいだし。散歩がてらに向かうね。」
 「わかりました。では、明日は僕も歩いていきますね。大学祭が終わった後は、ゆっくり散歩デートにしませんか?」
 「うん!」

 白の提案に、喜んで賛成すると。クスリと笑う声が静かに聞こえた。少し子どもっぽい反応だったかと反省したが、こういうところは職業柄仕方がないと、あまり気にしないことにしていた。
 白も「子どもは好きなので。」と嫌がっていなかったので、大丈夫だろう。

 フッと時計を見ると、もう夜も深い時間になっていた。白は明日も仕事だからきっと忙しいだろう。 そう思いながらも、白へのお願い事が頭をよぎった。だが、電話で言うのも恥ずかしさを隠しているようで、直接話したいと思っていた。でも、白を目の前にして言えるのか、という不安もある。
 迷っているうちに、白がおやすみの挨拶をしような雰囲気を感じ、しずくはとっさに「あの!」と話を続けた。

 「あのね、大学祭が終わった後に、少し時間貰えないかな?あの、お話ししたいことがあって。」
 「はい。お食事に誘うつもりでしたし、僕は大丈夫です。ゆっくりお話しするなら、しずくさんのお部屋にいった方がいいですか?」

 話す約束をしていれば、言わなきゃならない状況になるので、きっと自分を追い込むためにいい方法だと思った。が、しかし、二人きりになるにはしずくの部屋がいいと言われてしまい、しずくは一気に焦ってしまう。
 (それじゃあ、意味ないのー!)そう焦ってしまい、、、。

 「え!?えっと、私の部屋はだめ!、、、かな、、、。」

 と、激しく拒否をしてしまった。
 咄嗟に、「あの、落ち着いたところであれば大丈夫だよ。カフェとか、お食事のところでも。」付け加えたが、電話先の白は少し驚いていた。
 だが、返ってきた彼の声は至って普通で、白の大人の対応に申し訳ない気持ちになってしまった。

 「わかりました。僕も話したいことがあったので、ちょうど良かったです。場所探しておきます。」
 「ありがとう。ごめんね、こんな夜に長話しちゃって。」
 「いえ!明日楽しみにしてますね。おやすみなさい。」

 白の挨拶に返事をして、通話ボタンを切る。
 その瞬間、「わぁーーーー!!」と声を出しながら枕をぎゅーーと抱き締めてベットに倒れ込んだ。

 「絶対部屋に来るの嫌がってると思われたよね?!絶対思われた。どーしよー、、、!」

 自問自答しながら、自分の失敗を悔やんでしまうが、全ては後の祭り。白はもうしずくの言葉を聞いてしまってる。

 「部屋に来るのが嫌がってるんじゃないの、、、。二人きりになるのも嬉しい。だけどー!」
  
 どうしようもない後悔の念を独り言で発散しながらも、どうするかは頭ではわかっていた。

 「明日話して誤解を解かなくちゃ!そして、謝らなきゃ。」

 白は、わかってくれる。
 彼は、きっとしずくの言葉違いだというのも、理解してくれると信じていた。
 彼への信頼感が安心もくれる。

 明日の大切なデートに向けて、準備を早めに終わらせ、ベットに入ったのだった。
 枕元にはスマホとパンフレットとスターチス宝石がある。これさえあれば、いい夢が見られるとしずくは確信しながら、目を閉じた。

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