星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 外は秋の終わりの冷たい夜風が舞う。


「南条、寒くない?」

「うん。マフラー持ってきたから。先生は?」

「俺は平気。また遅くなっちまったな。送ってこうか?」

「えっ!全然いいよ!先生電車違うもん!」


 私は顔の前で両手をパタパタ振る。

 一緒にいられるのは嬉しいけど、勝手に遅くなったのに先生に迷惑かけるのは本意じゃない。


 それに…


 今はどんな顔してたら良いか分からないから─


「南条、俺と一緒じゃ嫌?」

「え…」


 そう思っているのに、横目でこちらを窺う先生の視線はどこか色っぽくて、また私をドキリとさせる。


「そんなことないよ!全然…嬉しいし…」


 狼狽えてつい本音が漏れた。


「じゃ一緒に行こう」


 先生の手が私の頭にぽんぽんと触れる。


 触れたところが温かくなる。先生が触れたところをもう一度自分の掌で触れた。


 ねぇ先生、何を思ってるの?


 頭から下ろした手を所在なくポケットに入れる。


 くしゃ…
 小さなメモの触感。


(先生のメアド…)


 その手触りを確認しながら宙を仰ぐ。

 その空には─


「あ!流れ星!」

「牡牛座流星群だな」

「先生、星詳しいの?」

「いや、これだけ。
 俺の『昴』って名前、牡牛座のプレアデス星団の和名なんだよ。で、これだけは知ってんの」

「そうなんだ」


 ふたり空を見上げながら歩く。
 その頭上には時折流星が尾を引いて駆けてゆく。


 それは確かに幸せな時間だった。


 先生の気持ちは分からない。
 けど、こうして隣にいられる時間は確かに私にとって幸福なもので、胸をときめかせるもので。



 そして別れ掛けに先生が言う。


「連絡、待ってるから」


 先生はどこまでも私を幸せにして、どこまでも惑わせるんだ─


       *   *   *
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