星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 でもそんな予感とは裏腹に、社会の荒波とはなかなか厳しいものだった。

 ご多分に漏れず、新社会人の俺はその洗礼を受けることになる。


 初めての仕事、初めての知らない土地、初めての独り暮らし。
 先輩の先生方は親切でいろいろ助けて下さるけれど、授業の他に研修も多く、残業もしばしばで時間も長い。
 慣れない土地での慣れない生活も相まって、俺は疲労困憊していた。


 とは言え、教師という仕事は相手は子供。
 ともするとその末永い人生を、未来を預かっているとも言えるわけで。ひとたび教壇に上がれば「新人だから」という甘えは許されない。責任は重い。
 しかも生徒達の前で悲愴な顔は見せられない。


 にも関わらず生徒達からの評価は

「先生可愛い~」で…


 一生懸命やっているつもりなのに落ち込む毎日だった。

 やっぱり研究室に残って研究者を目指せば良かった。
 あそこは居心地が好く、思いっ切り好きなことが出来た。
 教授も好い人だったし、仲間にも恵まれ、自分の成果も認められた。

 でも今更逃げ帰れない。

 教育実習の後、人より遅れて教員の就職先を探し始めた俺は思うように見つからず、伯父の知人が理事を勤めるこの学校を紹介されて就職に至ったのだ。伯父貴の面子を潰すわけにもいかない。


 もしあの頃に戻れるなら、きっとこの選択はしない…


 正直、日曜の暮れ時には薄暗い自分の部屋の中で独りベッドに座り込み、後悔することもあった。

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