星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

 でも君は…

 君は彼の腕の中にいて…


 出来ることなら彼から君を奪い取りたかった。


 でも堂々と君を『彼女』と呼べる彼に対して、俺はたった一言の気持ちさえ口に出来ないただの『教師』で…


 あの時、適当な理由を付けて君を彼から引き離すことは出来ただろう。

 けれど結局俺に出来たことは…


『俺明日使うプリント、コピーしてかなきゃならなかったから、先帰って。じゃ、また明日』


 精一杯の強がり。


 焦がれる身、とか、引き裂かれる胸、とかきっとこういうことを言うんだろう。
 どうしようもなく胸が苦しく、広大な宇宙に突如放り出された小動物のように喘ぎ、もがくしか出来ない。


 職員玄関を抜け、誰もいなくなった黄昏のグラウンド脇の欅の大樹の影に辿り着き、俺は我が身を抱える。


(南条、君が…好きだ…)


 言葉に出来ない言葉が胸を渦巻く。

 溢れる想いをただ君に伝えたいだけなのに、それはこんなにも苦しく、こんなにも険しい、と改めて想い知らされる。


 もっと早いうちに、もっと鮮明に想いを伝えておけば良かったんだ。

 中途半端に教師ぶって、核心に触れる言葉は言わない、とか、でも思わせ振りな態度で想いに気付かせたい、俺のことを意識させたい、とか。

 おこがましいにも程がある。


『まぁな。だって少しは意識してもらわなきゃいけないからな』


 君を振り向かせたいと思ったあの時、既に俺は間違ったやり方を選んでいたんだろう。

 純真な君に、大人の狡さは通用しないなんて、そんな当たり前なことにさえ俺は気付いていなかったんだ─

       *   *   *
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