星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 始業のチャイムが鳴り、それを合図にするように俺は南条の方へ一歩踏み出した。


 ちょうどその時。

「おい、教室に入れ!」

 階段を上がってきた他のクラスの先生達が廊下に姿を現し、生徒達に声を張り上げた。
 生徒達は三々五々引き揚げていき、南条も神川に手を引かれて理科室に姿を消した。


 俺は南条のいなくなった廊下に立ち竦む。


 夢も希望もないと言いながら、君は強く美しい。


 それに対して俺は…?


 君にすがって、君のためと言い訳して逃げて…


 決して『仕事』とだけ思って

『南条の夢を一緒に探す』

なんて言ったわけじゃなかったはずなのに、

『南条とは何もない。大丈夫』

なんて、自分にまで言い聞かせて…


『先生可愛い~』と言われて不服を言いながら、実際はそれに甘えていたのは俺の方だったんだ。


 強くありたい…

 君に適うように。

 君が信じてくれたように。


「初原先生?」

 隣の教室に来た先生に声を掛けられ我に返る。


「あ…すみません…」

 慌てて教室に戻る。


 その日の授業はもう何を喋っているかもよく分からなかった。

 気付くと君のことを考えていた。


 いや、それ以来俺は常に君のことばかりを考えてしまうようになった。


 ねぇ、南条?

 君は今何を思うの?

 君の眼には俺のこと、どんな風に映ってる?


 答えの出ない問いを叫び続ける。

 そんな日々の始まりだった。

       *   *   *
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