星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」

「先生!南条の、南条の容態は!?」

 椅子から立ち上がり、村田先生にすがるように訊ねる。


「先程病院に会いに行ってきました。怪我の程度は大したことないようです」

「は…あぁ…」


 安堵の溜め息が漏れる。


「ただ、検査の都合で今夜一晩は入院するそうです。それと…」

「それと?」

「国大が受験出来なかったことで酷く落ち込んでいました」

「あぁ…」


 真面目な南条らしい。
 きっと今も病院の白いベッドの上で溜め息を吐いているのだろう。そんな痛々しい様が容易に想像できる。


 唇を噛み足元に視線を落とした俺に村田先生は言う。

「第一志望には受かっているし気に病むなと話したのですが、気持ちが受け入れられない様子でした」

「……」


 当然だ。
 夢を追いかけて、それを叶えるためお父さんとの約束を果たそうと懸命に駆けてきたんだ。

 そして俺は、そんな南条の姿を誰より近くで見てきた。
 なのにどうしてこんな時に傍にいてやれないんだろう。今君の痛みを受け止めてやれるのは俺しかいないのに。


(こんな時に支えられないんじゃ、何の意味もないだろ)


『今まで誰も、私の夢なんて、考えてくれたことなかったの。私…自身でさえも』


 蝉時雨が煩い夏のあの日、君は俺がここで生きる意味をくれた。君の希望が俺の希望だった。

(南条…!)

 不甲斐なさに握り締めた拳が震えた。


「…村田先生」

「はい」

「南条の病院、教えて頂けませんか?」

「あぁ、はい」


 村田先生がコートのポケットを探る。


「朝貰ったメモなので傷んでいますが、どうぞ」

 そう言いながらポケットから撚れた紙切れを取り出し、俺のデスクに広げて置いた。そこには南条の自宅に程近い総合病院が記されていた。


「俺、今から行ってきます!」

 紙切れを引っ掴む。


「…お忙しいところ恐縮ですが、南条にとってそれが最善だと思います」

 村田先生が言い終わらないうちに俺は廊下へ飛び出した。

        *   *   *
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