星降る夜はその腕の中で─「先生…私のこと、好きですか?」
 掌に嫌な汗が浮かんできた時、


「May I help you?」


 私の後ろで軽やかな男性の声がした。


 振り返るとそこにはにこやかな笑顔の男の子が立っていた。


 私と同じくらいの歳だろうか?

 白く滑らかな肌に黒目がちな大きな瞳。
 女の子みたいなぷっくりとした唇。
 頬に掛かる栗色のさらさらと柔らかそうな髪が印象的な華奢な感じの男の子。
 外国人二人組と同様キャリーバッグを引いている。


 二人組は彼に私に言ったのと同じ言葉で問いかける。

 それに対し彼は流暢な英語で答える。

 三人はしばらくやり取りをして、やがて彼が

「Have a nice travel!」

と二人に手を振った。


 二人組はにこにこしながら

「Thanks!」

と3番ホームへ向かって行った。


(良かったぁ…)

 私はほーっと溜め息を吐く。


 すると彼が今度は私に向き直った。

 そして、


「君、いいね」


と、輝くばかりの笑顔を見せる。


(えっ?)


 その笑顔がとても可愛らしくて輝いて見えるので、思わず見惚れてしまう。
 改めて見ると息を飲むような物凄い美少年…


 それに…


(『いいね』って何?)


 よく分からない。


 けれど…


 その目映さに胸がドキンと鳴る。


「彼らのはオーストラリア訛りだね。分かんなくてもしょうがないよ、日本の学校では聞き慣れないから。

 それより…」


 彼は私に何事か話しかけるけれど、その甘やかな声が耳元を通り過ぎるだけで私は精一杯で、その内容は頭が動かず、全然入ってこなかった。

 綺麗な指で柔らかな髪を掻き上げる美しい男の子は、まるで昔見た絵本の王子様を思わせる。

 私は、生まれてから今までに感じたことのないような感覚で、ただただその様を夢でも見ているかのように見つめ立ち竦んでいた。
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