次期社長と訳あり偽装恋愛

一瞬にしていろんなことが頭の中を駆け巡る。
この前、立花さんは徐々に距離をつめていきたいって話していた。
一緒にいたのに、私のせいで立花さん席を外す羽目になってしまい申し訳なくなる。
それと同時に胸が痛くて切なくなった。

スマホをポケットにしまった立花さんに私はすぐに謝罪した。

「立花さん、食事中だったんですよね。私のせいですみません。もう、ここで大丈夫なので失礼します。ホントにありがとうございました」

「えっ、河野さん?」

「それでは失礼します」

私は背中を向け早足で駅へと急いだ。

つい忘れそうになるけど、私と立花さんは偽装恋愛をしていたんだ。
胸の痛みの原因を今になって自覚してしまうなんて最悪だ。

あんな提案なんて受けなければよかった。
一緒に過ごす時間が増え、いつの間にか私は立花さんを好きになっていた。

でも、私の想いは届くことはない。
立花さんには好きな人がいるからーーー。

唇を噛み締め、ひたすら歩く。
立花さんに偽装恋愛の解消を切り出されるのも時間の問題かもしれない。
この関係は偽物だったんだから当然だ。

私という存在が立花さんの役に立てたと思えば喜ばしいことだ。
私だって恋する気持ちを思い出すことが出来たんだから、立花さんには感謝しかない。
その時が来たらしっかり受け入れようと自分自身に言い聞かせた。
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