次期社長と訳あり偽装恋愛

梨音ちゃんと付き合い始めたので、親父に縁談の破棄を申し出た時、「何を馬鹿なことを言っているんだ」と取り合おうとしなかった。

その時、言い合いをするのも面倒になりまた日を改めようと思って帰ったことが悔やまれる。
親父が納得するまで話し合えばよかった。

会社で梨音ちゃんを見かけるたびに抱きしめたい衝動に駆られる。
でも、何も解決していない今の状態で会いに行くことは出来ない。
近いうちにもう一度、実家に戻って話をするしかない。

「マキ、お前はどうなんだ?親父さん、何も言ってこないのか?」

「ありがたいことに、俺はそこまで干渉はされてないからな。お前の好きな子と結婚すればいいって言ってくれてる」

マキはそう言ってワイングラスに口をつける。
同じような境遇なのに、本当に羨ましい。
うちの頑固親父にマキの親父さんの爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわ。

「響也に知られる前にどうにかしないといけないな」

ニッと嫌な笑みを浮かべながらサラミを摘まむ。
こいつ、面白がってないか?
まぁ、響也はおいといても、早めにかたをつけて梨音ちゃんに会いに行こう。

「あいつ、口では梨音ちゃんのことをボロクソ言うけどシスコンだからな」

「まぁ、梨音から響也に別れたって報告することはないと思うけど……。とにかく健闘を祈る」

マキが俺の肩をポンと叩き、それに応えるように頷いた。
< 191 / 212 >

この作品をシェア

pagetop