御曹司様の求愛から逃れられません!
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「園川さん!ほんとにヤバいって!本部長ほんっとに格好良いって!」

お手洗いに行ったはずの同僚・日野弥生(ひのやよい)は、興奮ぎみにハンカチを震わせて帰ってきた。

「日野さん、トイレは行ったの?」

「そんなの忘れた!トイレなんて忘れたよ!だって途中で本部長いるんだもん!」

“本部長が来ている”という情報に、オフィスの女性社員は何人かわざとトイレへ行くためにはしゃぎながら席を立った。

今日の営業企画部は、日野さんと同じような高い声がそこかしこで散らかっている。おじ様上司たちの「ほどほどにしろよー」という忠告なんて、誰も聞きやしない。

それくらい、どこも本部長の話題で持ちきり。
ついでにその本部長はこのオフィスのすぐそばまで、もうトイレのあたりまで来ているのだという。

「今マーケティング部のあたりだったから、もうすぐここに来るよ!やだちょっと化粧直しとこうかな」

「大丈夫だよ、日野さんそれで充分だと思う。もう来ちゃうから……ほら、逆に真面目に仕事してるふりしようよ」

「あ!確かに。そうだね、うん、そっちの方が好印象、好印象……」

日野さんは集中できない報告書を無理やり仕上げることにしたらしく、あべこべな日本語をタイピングしていることに全く気づかない。
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