【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「そんなこと聞いてどうするの?」
「ど、どうするって……。ただちょっと気になったと言うか、今の愛川先生の方が私は好きだなと思って」

口から出た素直な言葉は、愛川先生の泳いでいた目を止める。彼は驚いたような顔をするとわたしをまっすぐ見つめた。

「あっ……えっと……」

見つめられた私も、自分が“好き”と口走ったことに気づいて、慌てて顔の前で手を振った。

勘違いをしてもらっては困る。好きと言っても人としての好きであって、間違っても愛情ではない。愛川先生のことを見る目は変わったが、彼のことを好きになるなんて、そんなことあるはずがない。

あぁ、なんなのよ、もう!

別にムキになることもないのに、急に膨れ上がったわけのわからない感情に、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

「おい、大丈夫か?」

挙動不審な動きでもしていたのか、愛川先生はわたしの顔を覗き込んだ。

「うわっ!? 愛川先生、近いですって!」
「だな、悪い」

そう言ってわたしの頭をポンポンと撫でる愛川先生の顔は、穏やかに微笑んでいる。案の定わたしの顔は一気に熱を帯び、あっという間に真っ赤に染まった。

「も、もう寝ます! お、おやすみなさい!」

慌てて掛け布団を引っ張り上げ、頭まですっぽり被る。

結局どの愛川先生がホントの愛川先生なのか、聞けずじまいで終わってしまった。でも今はそれどころではない。

ベッドの端まで移動し体を小さく丸めると、わけのわからない感情に蓋をしめるかのように硬く目を閉じた。





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