僕が君を殺した日



「…な、なに?」


恐る恐る、彼女の顔をのぞき込むようにして言った。

彼女は俯いた顔をゆっくりと挙げると、僕の目を見てはっきりと言った。



「私を殺してほしい。
…君に」


……は?

あまりにも真剣な顔をして突拍子もないことを言う彼女に、空いた口が塞がらない。

何を言ってるんだ、この人は。

ろくに話をしたこともなければ、知っているのは名前くらいで彼女のことなんて何も知らない。


『私を殺してほしい』?


冗談じゃない。

何を考えているんだ。

僕を犯罪者にするつもりなのか?


そんな呆れを通り越した、人として軽蔑するようななんとも言えない気持ちで彼女を見つめていた。


「…いや、意味がわからないんだけど。
そんなことしたって、僕にはなんのメリットもないじゃないか。
むしろデメリットだらけだ。

それに、その頼みはそれ以前の問題だよ」


そう言って僕は、再び花壇の水やりを行う。



「……それ以前の問題?」


きょとんとした顔で僕を見つめる彼女に、ふつふつと苛立ちが込み上げてくる。


「ろくに話をしたこともない同級生に、そんな頼みごとするなんて人としてどうかしてるよ!
僕に“犯罪者になれ”って言ってるようなもんじゃないか!

頭おかしいんじゃ…」


そう言ったところで我に返った僕は、思わず左手で口を塞いだ。

ーーーーしまった。

こんなところ、誰かに見られたら…。

僕はあっという間に、いじめのターゲットだ。


『ごめん』

と言おうと、彼女のほうに目線を移す。


「…え……」


ーーーー固まった。

頬に一筋の涙が零れる、彼女の姿があったから。




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