片翼の蝶

✻

家に帰って、私は机に向かっていた。


珀と一緒に小説を書く。


もう日常化しているこの作業も、
もうすぐ佳境に入ろうとしていた。


珀の声が部屋に響き渡る。


私は黙ってその言葉を文字に変化させていった。


キーボードを叩く音が珀の声と混じる。


だんだんキーボードを叩く音が大きくなって、
気付いたら私は手を止めていた。


〈どうした?〉


「真奈美、大丈夫かなぁ」


〈安心しろ。本を読んでいる〉


「えっ、珀分かるの?」


〈ああ。だいだいのことならな〉


そうか。小説を読んでいるのか。


どんな気持ちで、小説を読んでいるんだろう。


あれは胸がワクワクして、ドキドキで、
愛と熱情に溢れていて、とにかく素敵なお話だった。


私は本棚に手を伸ばして、
この間買った「片翼の蝶」を手に取った。


タイトルと、珀の名前を指でなぞる。


珀は私の横から顔を出してそれを見た。


〈何してるんだ?〉


「なんかね、これ、私すごく好きなの。
 片翼っていいなって思うの。
 私にもそういう人、現れないかなって」


〈……もう会っているかもしれないぞ〉


「えっ?誰?」


〈さあな〉


珀は唇に大きく弧を描いた。


私は考えを巡らせて天井を見つめた。


私の片翼。誰だろう。


私もこんな風に愛されてみたい。


誰かに必要とされたい。


本当に、この本は私の憧れだった。



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