片翼の蝶


✻


また、夢を見た。


今日の夢は「嫉妬と憧憬」と
「片翼の蝶」が入り混じった夢だった。


壱や主人公、梨花や翔太が出て来て、
わちゃわちゃと何やら喋っている。


私はその輪の外にいて、
必死に耳をそばだてる。


けれど何も聞こえない。


もっと身を乗り出そうとするとふいに翔太がこっちを見た。


そして静かに笑うと、「おいで」と一言私に言う。


私はその声に誘われて一歩一歩、近づいていく。


やっと近くまで近寄ると、みんなの話す声が聞こえた。


「あたしが思うに、茜はもっと強くなるべきよ」


梨花が私の名前を口にした。


えっ?と思って梨花を見ると、
壱がうん、と一つ頷く。


「そうだな。一人でもっと行動するべきだ」


「あなたに頼り過ぎなのよ」


私の話をしているの?
でも、なんで?
不思議に思っていると、翔太が私を見て笑った。


「いいんだよ。茜はそのまんまで」


みんなが翔太を見つめる。


翔太はにこにこ笑っていて、私の手を握った。


握られた感覚は夢だからもちろんない。


だけど多分、それは温かいんだろうなと思う。


握られた手を見つめていると、
翔太はポツリと言った。


「時間だ」


「待って、珀!」


ガバッと思い切り起き上がって、
気付くと私は肩で息をしていた。


汗がダラダラと湧き出ていて、
心臓が飛び跳ねるように動いている。


変な夢を見た。不思議な夢だった。


翔太は、ううん、珀は私に触れないのに、
まるで珀に触られていたような感覚だった。


時間って何?私たちには制限時間があるの?


もしかして、もうすぐ会えなくなってしまうの?


そう思うととても怖くて、
そんな日が来てほしくないと思った。


まだ私は、珀のことをよく知らない。


大の親友や片翼と称した女の子の存在、
そして数えきれないほどの作品のうちの二冊を知っただけで、
他のことはよく知らない。


もっと知りたかった。


もっと珀のそばに、いたいと思った。


おかしいかな?



〈呼んだか?〉


「う、ううん。ちょっと夢を見ただけ」


〈夢か。そうか〉


珀はにやりと笑うと、私の隣に腰掛けた。


〈今日はどうするんだ?〉


「本屋さんに行くよ。珀の本を買いに」


〈へぇ。そんなに俺のことが気に入ったか〉


「珀じゃない。本が気に入ったの」



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