癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
その声の主は、遙季の同級生である真島悠生(ましまはるき)だった。

悠生は、進学校に珍しくヤンキーキャラの尖った性格をしていた。

クラスの誰とも馴染もうとしなかったが、遙季とは隣の席になったことと、名前が同じ読み方だということで話すようになった。

「なんだ?てめぇ」

毅は上目遣いに悠生を睨んだ。

遙季の喉元においたバタフライナイフはそのままだ。

「あんたこそ何?そいつにそんな厄介なもの突き付けんなよ」

「てめぇ、来んなよ。刺すぞ」

毅は、ジャケットのポケットから右手でビニール袋を取り出して、中のシンナーを吸入し始めた。

悠生がジワジワと距離をつめると、毅は遙季の腕を掴んだままでバタフライナイフを悠生に向けた。

毅の目は血走り、体からは強いシンナーの匂いがした。

正常の精神状態でないことは分かる。

何故自分がこの毅に絡まれているのかはわからないが、だからといって関係のない悠生まで巻き込むわけにはいかない。

「悠生、私は大丈夫だから早くこの場を去って」

「ハル、お前こそなに絡まれてんだよ」

悠生は遙季のことをハルと呼ぶ。自分達の名前を区別するために二人で決めたことだ。

「なに余裕こいてんだよ。遊びじゃねえぞ」

「,,,っ!」

毅は遙季の左腕を切りつけた。

傷は深くないが、出てきた血が切れた制服の袖をジワジワと染め上げる。

「てめえ!」

毅は、今度は、駆け寄ってきた悠生の左肩をバタフライナイフで刺した。

浮かび上がる血、正気を逸した毅の眼,,,。

それでも怯まない悠生は、右足で毅の右手を蹴りあげた。

バタフライナイフが宙を舞う。

その時、騒ぎを聞き付けた交番の警察官と数人の男性が毅を押さえつけるのが見えた。

暴れて訳のわからないことを叫ぶ毅。

ホッとする間もなく、遙季は呆然とその場にヘタリこんだ。

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