癒しの魔法使い~策士なインテリ眼鏡とツンデレ娘の攻防戦~
「俺と雪村さんの職場が一緒と知って、落ち着いていた若菜の心が罪悪感でいっぱいになっているのがわかってイライラした。だから、八代の元カノにちょっかい出せば、俺も気が晴れるかなって、初めはその程度の気持ちだったんだ」

努は開き直ったように伸びをした。

「まあ、すぐにフラれたけど、想像以上に雪村さんがいい子だったんで復讐なんてバカらしくてやめることにしたんだ」

そういう努が、本気でそう思っているのがわかり、遙季は照れて肩をすくめた。

「なのに一昨日、帰ってきた若菜が自首するとか言い出すだろう?てっきり、二人が若菜を脅したんだと思った。それなのに自分達は同じ職場で働きはじめて、挙げ句に結婚とか、ふざけんなよって感じだよ」

「だから、努の勘違いだって何度も,,,」

「ああ、完全に逆恨みだってわかってる。だけど若菜だけが傷つくのは許せなかったんだ」

努は幼い頃から若菜のことが好きだった。

だから、若菜が光琉のことを好きだと言った高校生の時も、心から二人を応援しようと思っていた。

しかし、一向に光琉は若菜に心を開こうとしない。

それどころか、「迷惑だ」、と言って撥ね付けて若菜を傷つけていたのだ。

プライドの高い若菜は、その事をずっと隠しており、努には

「恥ずかしがりやの八代君は、私と二人の時だけ好きだって囁くの」

と、嘘を伝えていたらしい。

それなのに、高校3年になった途端、遙季という別の彼女に気を移した光琉に努が腹を立てたのはいうまでもない。

あの事件が起こり、突然転校した若菜を問い詰めた努は、光琉を好きなあまり傷害事件まで起こした若菜に肩入れしてしまった。

光琉に復讐を考えていたが、光琉と遙季が別れたという噂を聞き実行には移さなかったらしい。

そのうち、遙季が県外に出て、光琉との破局説も信憑性を増した。

そのうち、光琉のことも遙季のことも思い出さなくなった。

遙季が鈴村医療センターに就職してきてからのことは、努が語った通りである。

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