エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「俺、今取り込み中なんだよね。何の用?」
「その子、私の友だちなんです。離してください!」
「ふーん、こいつの?」
 男の人は男の子の体を上から下まで眺めると、口許を可笑しそうに歪ませて笑った。

「そうです。だから、離してください」
「やだね。お前の言うことを聞く理由がない」
 男の人は私の言葉を無視して、仲間たちと一緒に男の子を路地裏の更に人目につかないような場所に連れて行こうとした。

 ――ええい、もうこうなれば、恥ずかしいけれどこうしてやる。

「助けて!変質者です!誰か来てーっ!!!」
 お腹の底から目一杯声を出して、私は叫んだ。それに驚いた男の人たちは、私の方を振り返り、男の子はその隙をついて、男の人のすねを思い切り蹴り上げた。

「いってえ!」
 男の人は反射的に男の子の腕を放し、私の方へ全速力で駆けてきた。男の人たちは何か叫びながら後ろから走ってきたけれど、私と男の子はそのまま一緒に商店街のある大通りの方へと無我夢中で走っていった。

「はあっ、はあ……」
 二人がようやく立ち止まったのは、商店街の中にある小さな公園だった。犬の散歩をしている女の人が水飲み場で犬に水を飲ませている。

「だ、大丈夫?」
 全速力で走って乱れた呼吸を整えながら、同じように苦しそうに肩を前後させる男の子に問いかけた。

「……ああ、大丈夫」
 男の子は小さく頷くと、眼鏡をかけ直し、ポケットからハンカチを取り出すと前髪をかき分けて汗を拭った。

「良かった」
 私は何度か深呼吸して呼吸を落ち着かせると、すぐ傍にある小さなベンチに腰をかけた。一方の男の子は立ち尽くしたまま、座ろうとしない。
「座らないの?」
「……」
 私が腰を持ち上げて横にずれると、男の子は遠慮がちに少し間を開けて私の横に腰をかけた。

「……がとう」
「え?」
「ありがとう」
 男の子は私から目を逸らしたまま、ぼそりと呟いた。手元を見ると、ハンカチをぎゅっと握り締めている。人から感謝されると何だか嬉しくて、私の口許は自然と緩んだ。

「どういたしまして」
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