エリート社員の一途な幼なじみに告白されました
「じゃあ、なんでいきなりこんなこと」
「……この間の歓迎会で吹っ切れた」

 私は環に抱きすくめられたまま、コートの背面をぎゅっと掴まれた。

「いつか誰かに取られる位なら、俺なりの方法で梓に気持ちを伝えるって決めた」

 真剣な声がとストレートな物言いに、たちまち胸が一杯になっていく。

「順序を踏めるほど俺は器用じゃない。だから、いきなりこうしてる」

 私が両手を下げたまま黙っていると、環は、

「――嫌か?」
 と問いかけてきた。

 なんで、だろう。強引なのに、嫌じゃない。私は遠慮がちに環に体を預けて、言葉を発する代わりに静かに首を左右に振った。

「良かった」

 環が静かに息を吐くのを額越しに感じる。環の手は私の背中から頭へ手を移動してきて、今度は頭を撫でられた。

「……今日の梓はいつもと雰囲気が違うな」

 私の今日の格好は、ライトグレーのロングコートとピンクのマフラーの下に、白のワンピース、タイツ、ショートブーツという格好だ。

「い、いつも会社ではズボンばかりだったから、たまにはって思って。でも、女の子らしい服装、これくらいしか無くて」

「似合ってる」
「あ、ありがと」

 服装を褒められただけで真っ赤になっている顔を見られたくなくて、暫く環の胸元に顔を埋めた。暫くそうしていると、何人かが私たちの横を通りかかる気配を感じた。

「人前でこんなことしたことないから、見られるのはちょっと照れくさいな」
 環は片手で私を抱き締めたまま、ぽつりと呟いた。

「な、何それ。私の方が照れくさいよ。いきなり告白されるし、そもそも、環にこんな風にされるなんて思わなかったし」

 それでも環は私の体を離さずにいたけれど、ふと、にゃあ、という声が聞こえて、私たちは反射的に声がする方を向いた。見知らぬ白黒の野良猫が塀の上に座っている。

 環はそっと私から体を離し、野良猫が居る塀に近づいて、様子を眺めた。野良猫は逃げもせず、その場で毛繕いを始めた。

 辺りを見回すと、建っている家も、電柱の位置も、塀の感じも、当時のままで不思議な気持ちになる。
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