仮面夫婦~御曹司は愛しい妻を溺愛したい~
静まり返った家は寂しくて無機質に感じた。

茫然と玄関を見ていた美琴は、しばらくしてからリビングに移動して、真新しい革張りのソファーに腰を下ろす。

一希が忙しく、新婚旅行に行く為の休みが取れないことは知っていた。

でもまさか結婚式翌日に仕事に出ていかれるとは思っていなかった。

(しかも観原千夜子が来るなんて)

彼女も披露宴に出席していたそうだが、とにかく両家の関係者が多かったので、視界に入れずに済んでいた。

あえて彼女を探さないようにしていた。

だから間近で見たのは初めてだった。それだけに衝撃的だった。

(すごく色っぽい人だった。女って感じで……)

あんな女性が仕事でもプライベートでも側にいたら、美琴に見向きもしないのも頷ける。

美琴は千夜子のように、いかにも女といったタイプではないから。

髪は結婚式の為に肩までの伸ばしたけれど、普段は巻く事もなく適当にまとめている。

目鼻立ちは自分では悪くはないと思うけれど経験不足からメイクが下手で華やかさに欠けている。

スタイルの方は平均身長程度はあり痩せている。けれど、その分出るところが出ていない子供っぽい体型で、男性の目を惹く容姿ではないのだ。

まだ二十四歳なのだからもっとお洒落をすればいいのだろうけど、実家で暮らしていた一年前まで、そんな余裕は無かったから、着飾るのに慣れていない。

でもこれから少しずつ、一希の妻に相応しくなろうと思っていたのに……。

一希の態度と千夜子の登場ですっかりやる気がしぼんでしまった。
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