仮面夫婦～御曹司は愛しい妻を溺愛したい～

「それから玄関脇の納戸を私の部屋にしたいの」

「納戸？ あそこは部屋としては使えない。狭いし窓もない」

「それは感覚の違いだわ。私からすれば綺麗な部屋だけど」

部屋は五畳ほどの広さがあるし、一希はないと言ったけれど、小さな窓はついている。

一希たち贅沢になれた人間からすればあり得なくても、美琴のような一般的な感覚ならば、個人部屋としてなんの不足もなかった。

「あの部屋で何をするんだ？」

「生活を。あそこで寝起きしたり、本を読んだり普通のことをするだけ」

「寝起きって……寝室を使わない気か？」

一希の顔に驚愕が浮かぶ。

美琴は平然と頷いた。

一希と観原千夜子が抱き合った寝室で眠れる訳がない。

一希のベッドを見ると、乱れた姿で横たわっていた千夜子の姿を思い出し、吐き気が襲って来るのだから。