愛のない部屋

峰岸を部屋から追い出しても、朝まで一睡もできないだろう。ぐるぐると頭をフル回転させて、答えが出ない問いを考え続けるのだ。


「誤魔化してるつもりはない」


「嘘をついたのに?」


「……嘘はついた」



全て潔く認めれば良いものを。
私なんかに嘘をついてどうなる?


「仕事というのは嘘なのね?」


「どうして知ってる?」


「今日、篠崎が来たの」



思わず呼び捨てにしてしまったが、篠崎の名前が出た途端、峰岸は真剣な表情になった。



「アイツなにを言った?」


「……さぁ」



いちいち報告する義務なんてありません。
ただの同居人に。


「…手紙のことだよな」



寝返りをうち、落胆した様子の峰岸に背を向ける。


「なにを聞いたのか、だいたい予想はつくが。俺は今日、楽しい思いなんてひとつもしてないよ」



また嘘の続きなのだとしたら、耳を塞いでしまいたい。

きちんと正面から峰岸に向き合っても、その瞳が真実を語っているか私には分からないから。
背を向け続ける。


「……辛い思いをした」



辛い思い?

切ない表情や疲れきった様子が意味するのは、
なにか辛い出来事があったせいだとしたら。


私は峰岸にとても失礼な言動を行っているだろう。



「篠崎の言ったことでなく、俺を信じろ」



背中越しに聞こえた言葉に、返事はできなかった。

誰かを信用して傷付くのは自分自身だというのに。

それでも峰岸は私に、信じろと言うのか。

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