愛のない部屋

「ストーカーで訴えてやる」

「証拠を残さないように上手くやるさ」

「……」



どんな状況においても峰岸が一枚上手のようだ。

弁が立つし、なにより正論。
敵に回したら怖そう。


「来年は、私がたこ焼きを奢るから」


「…うん」


「何処にも行かないでよね?」


「あたりまえだ」



頭をポンポンと優しく叩かれ、耳元に彼の唇が触れた。


どきりとする。




「愛してる」


なぜこんな騒がしく人の多い場所で、愛の言葉を堂々と紡げるのだろう。


「もう離さない」


「……今、幸せすぎて怖いの」


繋がらない会話。
峰岸の想いに答えるのではなく、ただ不安な気持ちを吐き出す。



「この穏やかな時間の後、なにか嫌なことが起きそうなの。そんな気がするの」


臆病な心は再び、警告音を鳴らし始めたようだ。
後戻りができない位置に到達する前に、引き返せと命令してくる。

それに逆らって峰岸の傍にいたいだなんて間違っているのかな。


「なにが起こっても、おまえは俺を信じれば良いんだよ」


優しく、甘く、


また毒を吐かれた。

< 170 / 430 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop