愛のない部屋

「ごめんなさい」

「謝ることはないだろ」


今度はちゃんとタキに視線を合わせる。


「タキと出逢った日に言ってくれたよね。なにがあったって俺は傍にいるって」


「言ったな」


「私はそれに救われたから、なにがあってもタキを信じると決めたのに。あまりにも舞さんとラブラブだったから嫉妬したみたい」


冗談に聞こえるように軽い口調で言う。


「もうあの頃の沙奈はいないから。おまえはひとりで歩けるよな」



"ひとり"、その言葉が妙に寂しく感じた。



「峰岸がいない日常に堪えられるんだよな?」


「……え?」


「峰岸とのことをあれこれ言うのはこれで最後にするから、ちゃんと答えて。峰岸がマリコにとられても良いんだな?」



"マリコ"、その名前に敏感になっている私は思わず肩を震わせた。


忘れたい名前。

でも忘れることのできない、峰岸が唯一本気で愛した女性。



「あの旅行に戻りたいとは思わないか?」



タキはなんて意地悪なのだろう。

まるで私の気持ちが分かるように、痛いところを的確に突いてくる。
ううん、あなたは全てお見通しなんだね。

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