愛のない部屋

今日こそ逃げない。


「沙奈、入って」


「…お邪魔します」



今日は随分と峰岸に名前を呼ばれる日だね。



「……峰岸?」


玄関のドアが閉まった途端、壁に押し付けられた。



「余裕ねぇわ」



壁と峰岸に挟まれて身動きがとれなくなる。
緊張する…。


「愛してるんだ」



頬に手が添えられたと思うと、顔が迫ってくる。


嫌がれば良かったのかもしれないし、曖昧な関係のままキスを受け入れるのは好ましくなかっただろうけど、顔を背けることをしなかった。



私も峰岸に触れたかったから。


触れられることを望んでいたから、キスを受け入れようと目を閉じる。



――が、



峰岸はすっと私から離れた。



「なに飲む?」



なんともないような顔をして、さっさとリビングへ行ってしまった。訳が分からないまま、私も後に続く。

キスされると思った。


いや"私がキスしたかったから"そう勘違いしてしまったのかもしれない。

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