愛のない部屋

それから間もなくしてタキの携帯が鳴り、慌てて帰って行った。舞さんからだと思う。


「大丈夫かな?」


「滝沢さんが彼女を手放すとは思えないよ」



隣り合ってビールを口にする。


「親同士が決めた結婚だと言ってもさ。滝沢さんは舞さんに夢中だったよ」


「そうなの?」


「一目惚れらしいよ」


一目惚れ。なんか良いな。

昔はそんな風に思えなかったけれど。
出会った瞬間に運命を感じた、とかそういうロマンチックなことが起きるのは、凄い素敵なことだと今は認めることができる。


「私の第一印象はどうだった?」


「ん?近寄りがたい女」


そうだろうね。


「じゃ、今は?」


峰岸はそっと私の頭を撫でた。


「愛しい」

「守ってやりたい」

「独り占めしたい」


彼が連呼した台詞は、甘く響いた。


「おかえり。やっと帰ってきた」


「……ただいま」



私たちの本当の恋路は、ここから始まるのだろう。

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