桜恋色
帰り道の途中。



「こんばんわぁ」



五年前までは毎日通っていた中学校に立ち寄る。



「あら。白川さん」



人が出払って寂しくなった職員室に、軽く会釈しながら入っていき、



軽く手を振りながら迎えてくれた顧問の先生に小走りで寄った。



「今日は何の楽譜?」



先生の言葉からもわかるように、OGのわたしがここに来たのはつい最近。



サークルで使う楽譜を借りに、今でもこうして寄らせて貰ってるわけだ。



「えっと……今日は」


「失礼しますっ」



先生に曲名を告げようとした声と、入り口からの声が被った。



先生とわたしは、反射的に視線をそちらに向ける。



「先生、鍵……ありがとうございました」



声の主は学ラン姿の男の子。



三年生のカラーである赤のラインが入った名札には「椎名」の二文字。




真っ直ぐにわたしたちの方へ歩み寄って来た椎名くんは、片手に握られた音楽室の鍵を先生へと差し出した。



学ランの裾からはみ出した大きめのセーター。



少し緩く履いてるズボン。



……なんか懐かしいなぁ。
< 3 / 35 >

この作品をシェア

pagetop