おやすみピーターパン
はじめましてピーター・パン



ゴーゴー鳴る水を掻く大きな音が、イライラと落ち着かない心を余計に刺激する。

船は嫌いだ。
船酔いをするからとかじゃない。ただ、大きすぎる海に対して船はどうしても小さくて、広い世界にひとり、ぽつんとここにしか居場所がないように思えて、なんとなく嫌いだ。


「もーすぐ着くから、そんな顔するなって。風羽」


ぽつんと小さな居場所で、ただひとり私の名前を呼んだのは、パパ。今年で17になる私の父親にしては35歳と非常に若い。髪は金髪だし、実は背中にタトゥーがある。私は若くてイケイケなパパが自慢だけれど、世間一般的には「だらしない」らしい。

背中に龍の絵が描いてあっても、髪が外国人みたいに金色でも、私にとってはただ1人のパパなのに。それを「だらしない」なんて言葉で否定するなんて、やっぱり世間は、大人は勝手で、汚い。


だから私は大人になんて、なりたくない。


いつもそんなことばかり考えていたから、高校生の父親のくせにチャラチャラした子供みたいなパパとは気が合った。反対に真面目で大人なママとはあまり気が合わなくて。先週、ついに別居を申し出られた。


別に驚かなかったし、ショックでもなかった。だっていつかはこうなるって分かってたし。

私は迷わず、パパと家を出る方を選んだ。


「風羽、みてみろ!あれが今日から俺達が暮らす夢のアイランドだ!」


そうはしゃぐパパの指差す先には、大きいような小さいような、とにかく緑につつまれたむさ苦しい島がぽつりと浮かんでいる。


私たちは今日から、パパが生まれ育ったこのド田舎の島で、パパの弟とそのお嫁さんと、4人で暮らす。


「私あれ、無人島って言われても信じるよ」

それくらい、木ばっかり。建物は点々とあるけれど、ビルとか道路とかそうゆうのは見えない。森、緑。まるで海に浮かぶ大きなブロッコリーだ。


「まあそうゆうなって、ここは空気もいいし。なんか美容にもよさそうだぞ、ほらなんか……なんとかイオンみたいな」

「マイナスイオンね。まあいいよ、私別に都会が好きな訳でも無いし」


別にどこだっていい。ママに、大人たちに敷かれたレールをただ走ることしかできない人生から離脱できるのなら。どこでもいい。


「ネバーランドが、あればいいのになぁ」


昔、絵本で見た。こどもの国。大人にならない世界。
ほんとうにあるのならどうか、誰か私を連れ出して。



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