レフティ

悠太は、自分が、京都にある100年以上続く老舗呉服屋の養子であること。
生まれてすぐに養護施設の前に捨てられて、本当の親の顔も、自分の名前も誕生日も知らないこと。
自分が養子として引き取られた理由。
なぜ1ヶ月間私と会わず、今日菊池さんとホテルから出てきたのか。

それらすべてを、順を追って話してくれた。

「なんで里香が泣くんだよ」

本当はずっと、私なんかには計り知れない色々を背負ってきたんだろう。
この話だって、本当は話したくなかったのかもしれない。
それなのに、彼は話してくれた。それも時折笑みを浮かべながら。

それはきっと、泣き出しそうな私に気付いていたからだったと思う。

それがまた、なんだか悲しくて。

「泣かないでって」

これ以上、彼を困らせたくない。
でも涙を止めることはできなくて。
私は自分にできることがあまりに少なくて、仕方ないから彼を抱き締めた。
それくらいしか、してあげられることがなかった。

「好きだよ」

やっぱり私のその言葉なんかじゃ、ちっとも彼の心は軽くならないだろう。
だけど、どうしても今伝えたかった。
今にもいなくなってしまいそうな彼を、引き留めたかったのかもしれない。

「やっぱ里香は変わってるね」

私の腕の中で、彼は小さく呟く。

「…引かないの?」

「へ?」

つい、場違いな素っ頓狂な声をあげてしまった。
引かないのって、どの部分を指しているのだろう。
彼は、菊池さんとは何もなかったと言ったのに。

「菊池さんとは何もなかったんでしょ?」

「そこじゃねーわ」

ふはっと吹き出したその声とともに顔をあげた彼は、ようやく、いつもの彼だった。
それがすごく、すごく嬉しい。
私がずっと見たかった、悠太の顔。
ちょっと意地悪で、いつでも人を見下したような目をして、でも笑うと、それがくしゃっとなる。

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