俺様系和服社長の家庭教師になりました

 いつものように、夕食を食べた。デザートに5月が旬だといつメロンのシャーベットをいただいていた時だった。

 色が、茶封筒を翠の目の前のテーブルに置いた。


 「今月分の月謝だ。また、来月も頼む。」

 もう5月の最終日だという事に今更ながら気づく。月半ばからのスタートだったからだとしても、翠にとってこの約半月は、あっという間の出来事に感じられていた。
 色は、自分の分のシャーベットも翠の前に置いた。翠が甘い物や果物が好きだと話すと、それからデザートをくれるようになっていた。いつもなら、「ありがとうございます!」と喜んで受け取っていたが、今日は何も言えなく俯いたまま黙りこんでしまう。


 お金を目の前にして、翠は自分と色の関係が仕事であり、お金だけの関係に見えてしまった。この仕事が終わってしまったら、もう色との関係はなくなるのだ。少し前と同じように、彼と会えない日常化始まる。

 それを考えると寂しくて切なくなってしまう。だけれど、それはどうしようもなくて。今の色には何も出来ない。考えられなかった。


 「やっぱりお金はいりません。」
 「……おまえ、何言ってんだ?始めに約束しただろ?」
 「それでも、受け取れません。」
 

 しっかりと色の顔を向いて、決意を彼に伝えようと目を見つめる。色も決して翠から目線を逸らさない。色も決めたことを覆すつもりはないようだ。

 「なんで決めたことを変えるんだ。仕事だと決めたんじゃないのかよ。」
 「夕食をいただくだけで十分な内容だと思ったんです。」
 「おまえな、言ってることが無茶苦茶だぞ。」
 「………お金だけは、受け取れません。」

 色が言っている事は当たり前の事だ。
 決めたことを止めようとしている翠に全て否があるのは、自分でもわかっている。
 けれども、お金の関係で繋がるのが嫌だった。

 「金を受け取れないなら、何だったらいいんだ。」
 「それは…….。いりません。」
 「それでは俺が困るんだよ。」
 「私は構いません。」
 「俺が嫌だって言ってんだろ!」

 言い合いになって、初めて彼が怒りの声を上げた。驚き、恐怖心を感じそうになったが、全て自分の責任だと、翠は堪えて色を見つめ続けた。

 だが、色も頑固な翠の態度に、少しずつ苛立ちを感じ始めているようだった。いつもよりも、目は鋭く口には笑みが消えている。
 黙ったまま動かない翠を見て、チッと舌打ちをしてから、色はゆっくりと翠に近づいた。


 「じゃあ、身体で支払うか?」


 耳元で色が企んだ悪い声で、そう囁いた。いつもより低音で意地悪で、そして、色気のある声だった。この声を聞いて、身体を震わせない女性はいないのではないかと思わせるほどの、魅惑の声だ。

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