俺様系和服社長の家庭教師になりました




 その日は、家庭教師の時間はなく、すぐに車に乗せられた。いつものように、自宅まで送ってくれるのかと思ったが、目的地は違うようで、知らない道を車は走っていった。

 小さなレストランを入ろうとしていたので、「泣き顔では恥ずかしいです。」と、翠は断ったけれど、「個室だ。」と有無を言わせずに手首を掴まれて、またズルズルと引き面れるように店内に入った。

 イタリアンのレストランで、色は「ここのピザがうまいんだ。」と教えてくれた。ふたりで遅めの夕飯を食べ、いつもと少し雰囲気は違ってしまったが、言葉を交わした。

 家庭教師は、半分にして週3日にすることになった。そして、お互いに忙しい時は、無理はしないことにしたのだ。
 

 目の前には、大好きな人。
 けれど、告白しフラれた相手。そして、家庭教師である自分の生徒。
 そして、それもあと約1ヶ月の関係。

 
 そんな複雑な関係だけれど、翠は色が変わらずに愛しいと感じていた。
 一生懸命頑張って最後までギリシャ語を教えて、色にギリシャへの出店を叶えてもらいたい。
 そして、また彼との時間が最後の日に、もう一度気持ちを伝えよう。

 向かい側に座り、食後のコーヒーを優雅に飲んでいる、着物が似合う俺様で年上の彼に。
 翠はそう決心すると、色にバレないように、こっそりと微笑んだ。


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