麻布十番の妖遊戯
 己の目の前には女が二人、無表情で己を見下ろしている。

 相変わらず尻餅をついている情けない状態の司は全身が怯える子犬のように震えていた。尻を擦って後ずさる。

「なんでだよ、なんでだよ、なんでまたここに戻ってくるんだよ。俺はここから暗闇に落とされたじゃねえか。誰もいない暗闇の中で、ひとりぼっちでいた。そこで瑞香に、おまえに殺された。死んだじゃねえか。死んだだろう、なあ、そうだろう、殺しただろう、俺のこと。もういいだろう。苦しいんだよ。それに、なんで瑞香だけじゃなくてこいつまでいるんだよ」

 震える指をさして泣き叫んでいる。まるでこどもだ。
 女二人とは、もちろん瑞香とたまこのことだ。
 司に殺された二人は、己を殺した男が死ぬのを待ち、死してから同じことをして殺すのを待ちわびていたのだ。

 まずは瑞香が自分のために殺し、次はたまこが自分のために殺す。その後は、その他に犠牲になった女たちが暗闇で今か今かと待ち構えている。

 昭子と太郎と侍は、待ちわびた新作映画を心待ちにしているが如く、これからの事の成り行きに心躍らせていた。
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