麻布十番の妖遊戯
 目が合うと、切れ長の目を細めて色っぽい笑みを向けられた。

 自分以外にも女性がいることに安心した。思わず小さく頭を下げる。そして、

「あの、ここは一体……」

 家の一室のようにも見えるし、どこかの店のようにも見える。

 見回した部屋の中は壁も天井も床も全てが木でできている。見える限りではこの部屋しかない。

 この大きなこたつ以外に何も置いていない。
 明かりは落とされていて、目の前にある蝋燭の炎がチロチロと揺れている。

 目の前の二人の顔は蝋燭の火に照らされて揺れていた。

「今すぐにはなんでここに現れたのか思い出せなくても、すぐに思い出しますよ。何もかもね」

 太郎が瑞香の顔を覗き込んでゆったりと唇を左右に引き延ばす。

 瑞香は体を強張らせて後ろに引き、昭子にちらりと目を向けた。

「理由?」とぽつりと声を漏らす。

 大丈夫。
 と昭子が瑞香に頷いてみせる。
< 19 / 190 >

この作品をシェア

pagetop