麻布十番の妖遊戯
 あれ、この人見たことある。どこかで会ってる。
 瑞香は確かに覚えがあった。

 己の隣には侍の格好をした男が知らぬうちに座っていて、手にはメロンソーダを持っていた。

 アンバランスさ加減に言葉が出てこないが、やはりこの顔には見覚えがあった。

 思い切りじろじろと眺め回す。そして息を飲んだ。

「侍さんですよね」
「おお、覚えていてくれたのかい? それは嬉しいねえ」

 目を細めて美味しそうにメロンソーダを飲んでいる侍のその向こうに黒い靄が動いたような気がして瑞香は目を擦った。まだ消えていない。もやもやと侍の後ろで動いている。

「それで瑞香さん、その男はあんたが一緒に生活するようになってからどうなったんだい?」

 太郎に酒を注いでもらった昭子は楽しそうに瑞香に話の水を向けた。

 瑞香は侍をもう一度ちらと見て、太郎に身体を向け直す。
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