麻布十番の妖遊戯
「昭子(しょうこ)さん。今日は侍さんの話を聞かせてくれる約束をした日ですよ。侍さんがどうしてここにいるようになったのか、教えてくれる日。いっつも話の途中ではぐらかすから最後まで聞けてないもん」

 昭子と呼ばれたのは、先ほどの鈴の音の声の主で、紅色の振袖の打掛にお垂髪(おすべらかし)のよく似合う妖艶な雰囲気に香の香りをふわりと漂わせた二十に差し掛かろうかという頃合いの女子(おなご)だ。

 肌は新しく舞う輝ききった雪のように真っ白くてとても冷たい。

 身体をくねらせ、太郎にいつものように、「あたしにはお酒をちょうだいね」と台所の奥に置いてある酒の瓶を指さした。

「はいはい。いつものですね。ちょいとお待ちを」

 ちょこんと頭を下げた太郎は、侍の前にいつものメロンソーダを、昭子には日本酒を、たまこにはオレンジジュースをてきぱきと出した。

 各々飲み物を手に取り一口飲むと、頼んでもいないのにおでんの皿がそれぞれの前に置かれる。
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