麻布十番の妖遊戯
 例えば、解体用に愛用していたノコギリ、肉切り包丁、拘束器具等々殺しに使った道具が庭の小屋の中に隠した箱の中にひっそりとしまったままになっている。

 家族の留守をみて、たまに手に取り眺めては血で変色した刃に頬ずりをしたものだ。
 それに、獲物を縛った縄や猿轡。そうだ、一番見られてはならない箱があった。

 箱の中には被害者たちの着ていた血まみれの服が当時のまま入っている。
 それもたまに気が向いたときに自分に身につけてみたりしていたのだ。
 これを見られたら自分はどう思われるであろうか。

 変人呼ばわりされるのは間違いない。変人で済めばいいがそうはいくまい。
 いってもらっては困る。裏切られたと絶望し落胆するだろう。

 果たしてそれは憎しみに変わるだろうか。それとも狂喜に変わるだろうか。
 そんなことを考えると楽しくなって仕方ない。
 意地汚く笑った口元、荒れた薄い唇の間から黄色い歯が漏れた。

「なんて楽しいことが起こるのか。ああ、俺はその状況を楽しみたい」

 家族は遅かれ早かれ畑を掘り返し、たくさんの骨を見つけるかもしれない。
 きっと家の周りの土という土を掘り返すことになる。
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