麻布十番の妖遊戯
「こいつが死ぬのを待ってここに来たはいいけど、なんだこいつは死んでからも楽しむばかりでなんら変わってないねえ。そうだろ、太郎」

「ええ。そうですね昭子さん。残された家族が可哀想だ。何も知らないでこんなのと結婚して」

「子供が可哀想よね、その血が半分入ってるって思ったらさ。ああ、待って。それはないか」

 と、太郎と昭子は口々に言い合っているがその顔はにんまりと笑っている。

木の葉の擦れる音が大きく辺りに響く。冷たい風が畑の間を抜ける。

 家の玄関が開いた。司は無意識に顔を向ける。家の中から司の家族がぞろぞろと出てくるところだった。

「おいおい、お前たち、なんで出てきちゃった? 俺を家に置いて出てくるなんてひどいやつらだな。寂しいじゃないか」

 司は自分の家族が揃って家から出てくるのを見て鼻で笑った。
 しかし、その笑いもすぐに消えることになる。

 家族の背には山登りにでも行くのかと思うほどの大きなリュックが背負われていたのだ。
 それも一つじゃない。二つを肩にかけていたり、妻に至っては長期旅行用のスーツケースを二つ引いている。

 様子がおかしい。家族の方に向けて歩き出した司は徐々に不安に満ちていく。
 娘がボストンバッグを三つ、四つと車に積み、小走りに家の中に戻る。
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