失翼の天使―wing lost the angel―
「あの、長崎優海先生ですか……?」



「そうですが?」



ナースステーションに戻り、疲れた身体を休もうとすると、私より少し年上で、バリバリのキャリアウーマンぽい綺麗な女性が声を掛けて来た。



「あ、サイトウさんの彼女さんよ。ほら、優海が処置したサテンスキーの」



「あぁ!はい、どうも」



姉に女性の事を教えられ、頭を下げて待合と出た。



「先生、ありがとうございました!」



「いや、私は何も……!」



医者としては当然で、何よりあの人……サイトウさんを助けたのは兄である。

なのに手を握られ、深々と頭を下げられてしまう展開には戸惑いしかない。



「手術して下さった先生が、現場で処置した長崎優海先生の判断が早く、急いで病院に運んだから助かったって……。数分の差で助からなかったと……っ。先生のお陰で、彼が死ななかった……。本当に、ありがとうございます……っ!先生のお陰で、来月……彼とちゃんと結婚出来ます……っ、」



「違いますよ、それは」



「……えっ……?」



「サイトウさんは、私に“彼女”と言ってました。きっと、貴方の存在が、サイトウさんに生きたいという気力を与えたんだと思いますよ?」



「……っ……、」



あれは私に出来た、あの場での最善の処置だっただけ。

もしかしたら、救急車で搬送中に……って事もあった筈。
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