失翼の天使―wing lost the angel―
鷺沼先生はここでのオペを決めて、ガウンを羽織る。

その間に消毒液をボトルごと掛ける。



「仙田さん直介(直接介助/器械出し)行ける?」



「はい!」



「大池主任。鷺沼先生の横に入って、吸引器挿して」



「わかりました」



「副島君、追いつかない分を手でかき出して」



「はいっ!;;」



鷺沼先生をオペに集中させる為、指示を出す。



「……師長、ガーゼをあるだけ下さい」



「了解」



「仕方ないか」



「その方が、良いかと思います」



出血が止まらず、研修医2人のフォローでは鷺沼先生の腕もフルに活かせないだろう。

私の指示に、ダメージコントロールという選択を思い出したであろう鷺沼先生。

姉もわかったのか、大量のガーゼを袋から出して準備してる。

24時間後なら、兄と鷺沼先生でオペを再開する事が出来るし、何より患者さんの負担が減る筈だ。



「何ですか?これ;;」



「ダメージコントロールじゃないか?」



「あぁ、なるほど……」



鷺沼先生がガーゼを詰め始め、事を理解した松枝君が手伝う。

閉腹せず、HCUでの24時間の経過観察が始まる。

その間に急変もあり得るし、出血が止まる可能性もある。

そこで、彼女の生命力、生きる事への気持ちもわかるだろう。
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