お見合い相手はエリート同期

 次の日にはどこから漏れ伝えられたのか、わざわざ盗み聞きに行かずともご丁寧に『高橋さんは澤口くんに嫌いと言われた』と本人の耳にまで噂は届けられた。

 そして澤口は半年後には海外赴任したらしいと聞いたから、その半年間。
 部署も違うから会うことが稀なのに、会う度に馬鹿にしたような視線を浴びせられた。

 被害妄想でもなんでもない。
 本人が『あいつ、馬鹿でしょ』って言っていたのだから。

 しかもそれを裏付けるように私に聞こえるか聞こえないかくらいの音量で「フッ」と小馬鹿にした笑いを残して去っていく。
 会話なんてする仲じゃないし、したくもないから2人の間に会話があるわけじゃない。

 それなのに、食堂へ行く時の通路ですれ違いざまに、書類を届けに来て私の側を通った時に、帰り際、駅に急いで向かう駅までの道を小走りで走っていた時に。

 必ず小さく「フッ」とだけ息を吐いて去っていく。
 まるで後には『あ、俺の嫌いな馬鹿な高橋だ』って続くようだった。

 何度も何度もそういうことがあって、私は澤口のことが大嫌いになった。
 そうこうしているうちに澤口が海外赴任をして、私は奴に会うことはなくなった。

 その澤口が帰国して、その上まさかのお見合い相手だったなんて………。
 笑いのネタにはいいけど。
 私は大真面目に結婚相手を探しているのに。

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