パクチーの王様



 あ~っ。
 手足に血が流れる~。

 お風呂でのびのび手足を伸ばし、カピバラのように口許まで湯に浸かった芽以は、まったりしていた。

 なんだかんだで、いつも先にお風呂いただいて悪いなー。

 でも、それって、逸人さんが、より遅くまで働いてるってことだよね。

 私も頑張らねばっ、と思いながら、もこもこのパジャマを着て、外に出ると、逸人が居た。

 まだコックコート姿のまま、腕組みをして、立っている。

 その難しい顔に、どうしましたっ? と身を乗り出して訊きそうになる。

「芽以……」

「は、はいっ?」

 逸人はその美しい顔を上げ、こちらを見た。

 だが、沈黙している。

 なにか、わたくし、ご無礼を? 王子様。

 さっき、アラブの、と逸人が言いかけてやめたので、芽以の頭の中では、逸人はアラブの王子様になっていた。
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