パクチーの王様
鼻歌を歌いながら実家に寄った砂羽は、鬱陶しい物体に出会い、引き返そうかと思ってしまった。
圭太だ。
広い屋敷の廊下の果てに居ても、圭太から発せられている、どよんとした空気を感じる。
あれが、名家の娘をもらって、会社を継ごうとしている男の姿だろうか……。
人が聞いたら、前途洋々の人生だろうに。
さっき、店に居た二人とは大違いだな、と思う。
クリスマスイブの夜に、圭太に、いきなり放り出された芽以。
圭太のために会社を辞め、その圭太に押し付けられる形で芽以をめとった逸人。
どう考えても、あの二人の方が問題ある状況なのに。
っていうか、あのパクチー専門店。
ひとりもパクチー好きが働いていないのは問題があるような、と思っていると、圭太がこちらに気がついた。
ちっ、このまま逃げようかと思ったのに。
姉として、一声かけるべきだろうか、と思いながら、仕方なしに砂羽は圭太に近づく。