パクチーの王様
さて、戸締りもしたし、寝るか、と芽以が部屋の戸を開けようとしたとき、逸人が階段を上がって来た。
芽以の顔を黙って見たあとで、
「……寝れそうか? 芽以」
と逸人は訊いてくる。
「なんでですか?」
と芽以は笑ってみせたが、わかっていた。
圭太が来たからだと。
「一緒に寝るか?」
ふいに逸人はそんなことを言ってきた。
どきりとしながらも、芽以は、
「えーっ。
また逃げちゃうんじゃないですかー?」
と冗談めかして答える。
だが、逸人は、自分をまっすぐ見つめ、
「今夜は逃げない」
と言ってきた。
その真摯な表情に、
いや……、今、私の方が逃げたい気持ちになってます……と芽以は思っていた。